Mayu’s blog

どこにでもいる平凡な20代女のつぶやき

滝口悠生「高架線」を読んだ

  一棟のボロアパート。同じ部屋に別々の時期に住んでいた男性たちを取り巻く物語。「群像」2017年3月号掲載のものを読んだ。

  登場人物4〜5人が、証言のような形で自分の人生や他の住人について語っていく。それぞれ「七見歩です」などと冒頭で自己紹介をし語り始めるのが特徴的。ということで「証言」と表現した。

  一見正体不明で少しあやしかった最後の証言者「日暮」は、アパートの大家である老夫婦の妻が前の夫との間に産んだ子どもであった。産まれて間もなく、別の夫妻に養子として引き取られた。彼はこのアパートの当時の住人であった別の証言者、「茶太郎」から話を聞いている。が、茶太郎に大家との関係は明かさない。

  どうしようということもなく、ただただ茶太郎の話を聞く日暮。失恋の話や、隣人の男性に紹介されて観た映画のあらすじ。自身も産まれて少しの間育ったあの部屋で、その後あらゆる人が住み、それぞれの人生があった。

  最後に産みの母である大家の妻と会話をするシーンがある。ぼろアパートが取り壊される日だ。といっても、どのような会話をしたのか読者にはわからない。また別の証言者である日暮の妻からの視点でそのシーンは語られる。

  同じアパートの同じ部屋に住んでいた人々の人生が少しづつ重なり、ゆるくつながっている。とりとめのない話の中にも重要な要素が含まれている。事実、茶太郎の隣人とは大家の息子、日暮の兄であった。

  一言で表現すると、穏やかな小説だった。